DS-LiteとMAP-Eの違いとは?IPv4 over IPv6の2方式を法人視点で比較

IPoE方式(IPv6 IPoE)の回線を検討していると、「DS-Lite」「MAP-E」という2つの言葉が出てきます。どちらもIPv6の通信網の上でIPv4の通信を通すための技術(IPv4 over IPv6)で、目的は同じですが、途中のつくりが違います。そして法人の場合、その違いがルーターの選定・拠点間VPN・固定IPの可否といった実務に効いてきます。

この記事では、次の3点がわかります。

  • DS-LiteとMAP-Eの仕組みの違い(アドレス変換をどこで行うか、ポートをどう分けるか)
  • 法人の実務で影響が出るポイント(対応機器・固定IP・VPN・同時接続)
  • 自社がどちらの方式の回線を選ぶべきかを判断するチェックリスト

先にお断りしておくと、どちらの方式でも通信速度はベストエフォート(利用環境・時間帯により変動し、速度を保証するものではありません)です。「MAP-Eだから速い」「DS-Liteだから遅い」と一律に比較できる公開データは見当たらず、本記事は速度の優劣ではなく業務要件との相性という観点で整理します。

まず用語を整理する:規格名とサービス名は別もの

混同しやすいので、最初に言葉を分けておきます。

用語何の言葉か一言でいうと
IPoE / PPPoE接続方式インターネットへの「つなぎ方」。IPoEはトンネルを使わずEthernetのまま接続する方式
IPv4 / IPv6通信プロトコル(アドレスの規格)「住所」の規格。接続方式とは別の概念
IPv4 over IPv6技術の総称IPv6の網の上でIPv4通信を通す技術の総称
DS-Lite規格(方式)名IPv4 over IPv6の方式のひとつ。RFC 6333で規定
MAP-E規格(方式)名IPv4 over IPv6の方式のひとつ。RFC 7597で規定
transix / v6プラスサービス名(商品名)VNE事業者が提供するIPoE接続サービスの名称

ポイントは、DS-Lite・MAP-Eは「規格」、transix・v6プラスは「サービス」という関係です。

  • transixは、インターネットマルチフィード株式会社が提供するIPoE接続サービスで、IPv4接続の標準メニューとしてDS-Lite方式(RFC 6333に準拠)を提供しています(出典:インターネットマルチフィード「transix IPv4接続(DS-Lite)」)。
  • v6プラスは、株式会社JPIXが提供するサービスで、公式ページでは「IPoE方式によるIPv6インターネット接続とIPv6ネットワーク上で実現するIPv4インターネット接続のデュアルスタック」と説明されています(出典:JPIX「v6プラス」)。このIPv4 over IPv6トンネルにMAP-E方式が使われることは、対応ルーターメーカーの設定資料にも記載があります(参考:アライドテレシス「”v6プラス”によるIPv4・IPv6インターネットへの同時接続」設定例集)。

なお、IPoE方式そのものの仕組み(トンネルを使わず接続点までルーティングする方式であること)は、JPNIC(日本ネットワークインフォメーションセンター)の解説に整理されています。IPoEとPPPoEの違いそのものは別記事にまとめています。

仕組みの違い:「変換をどこでやるか」が最大の分岐点

両方式とも、1つのグローバルIPv4アドレスを複数の利用者で分け合う点は共通です。IPv4アドレスが枯渇したあとも接続を提供するための技術だからです。違いは、その「分け合い方」と「変換の場所」にあります。

DS-Lite:アドレス変換は事業者側でまとめて行う(ステートフル)

DS-Liteは、RFC 6333「Dual-Stack Lite Broadband Deployments Following IPv4 Exhaustion」(2011年8月)で規定された方式です。RFCでは、IPv4-in-IPv6のトンネル(softwire)とNAT(アドレス変換)を組み合わせて、事業者が複数の顧客でIPv4アドレスを共有できるようにする技術として説明されています。

登場人物は2つです。

  • B4:利用者側(宅内のルーターなど)に置かれ、事業者側との間にIPv4-in-IPv6トンネルをつくる機能
  • AFTR:事業者側に置かれ、トンネルの出口とIPv4-IPv4のNATを同じ装置で行う機能

つまり、宅内から出ていく段階ではIPv4はプライベートアドレスのままで、グローバルIPv4アドレスへの変換は事業者側のAFTR(いわゆるキャリアグレードNAT)でまとめて行われます。事業者側の装置が「どの通信がどの利用者のものか」を対応表(バインディングテーブル)で管理するため、ステートフルな方式と呼ばれます。

実務上のわかりやすい特徴は、宅内ルーター側でのIPv4の設定項目が少ないことです。事業者から指定されたトンネル終端(AFTR)を設定すればつながる構成が一般的で、対応ルーターであれば設定はシンプルです。

MAP-E:アドレス変換は宅内側で行い、ポート範囲であらかじめ分ける(ステートレス)

MAP-Eは、RFC 7597「Mapping of Address and Port with Encapsulation (MAP-E)」(2015年7月)で規定された方式です。RFCでは、IPv6アドレスとIPv4アドレス・トランスポート層のポートとの対応づけを行う汎用的な仕組みとして説明されています。

こちらの登場人物も2つです。

  • CE(Customer Edge):利用者側の機器。NAPT(アドレスとポートの変換)とカプセル化を宅内側で行う
  • BR(Border Relay):事業者側の境界ルーター。MAPドメインと外部のIPv4網をつなぐ

MAP-Eの特徴は、接続ごとの状態を事業者側で持たない(ステートレス)ことです。IPv6アドレスと配布されたマッピングルールから、使うIPv4アドレスとポート範囲を計算で導き出します。このとき使われるのがPSID(Port-Set ID)で、RFCでは異なるPSID値が互いに重ならないポート集合を保証すると規定されています。

言い換えると、MAP-Eでは「あなたが使えるポートはこの範囲」と最初から区画が割り当てられるイメージです。変換は宅内のルーターで行われ、事業者側の装置は転送に徹します。

図解のかわりに:一言でいうと

DS-LiteMAP-E
規定RFC 6333(2011年8月)RFC 7597(2015年7月)
IPv4アドレスの共有あり(事業者側でNAT)あり(ポート範囲で分割)
NATを行う場所事業者側の装置(AFTR)宅内側の機器(CE)
状態管理ステートフル(事業者側が対応表を保持)ステートレス(計算で導出)
宅内側の設定トンネル終端の指定が中心マッピングルール/PSIDに基づく変換

法人の実務で違いが出る4つのポイント

ここからが本題です。方式の違いは、次の4点で業務に影響します。

1. 対応ルーターが方式ごとに異なる

DS-Lite対応MAP-E対応は別の機能です。市販ルーターやUTM(統合脅威管理装置)には両方に対応した製品もありますが、設定は方式ごとに異なり、片方にしか対応していない機種もあります。回線を乗り換えるときは「IPoE対応」という表記だけで判断せず、契約するサービスの方式に自社の機器が対応しているかを型番単位で確認してください。インターネットマルチフィードは、transixのDS-Lite対応機種一覧を公開しています。

2. 同時に使えるポート数の考え方が違う

どちらの方式でも、1つのグローバルIPv4アドレスを共有する以上、1拠点が同時に使えるポート数には上限があります。この上限に近づくと、Web会議・クラウドサービス・多数の端末からの通信が重なる時間帯に、つながりにくさとして現れることがあります。

  • MAP-E:PSIDによってあらかじめ割り当てられたポート範囲が上限になります(RFC 7597)。
  • DS-Lite:事業者側のNAT設計に依存します。transixの場合、標準サービスは利用できるポート数が限られており、有料オプションとして12800または64000までのポート拡張が用意されていることが公開情報として案内されています(出典:インターネットマルチフィード「transix IPv4接続(DS-Lite)」)。

従業員数の多い拠点や、端末台数が多い施設では、方式そのものより「その事業者がどれだけのポートを割り当てるか」が実務上の分かれ目になります。症状と切り分け手順はDS-Liteのポート枯渇を解説した記事にまとめています。

3. 固定IPアドレスが必要な業務があるか

DS-LiteもMAP-Eも、グローバルIPv4アドレスを他の利用者と共有する前提の方式です。そのため、以下のような「自社専用のグローバルIPv4アドレス」を前提にした業務は、共有方式のままでは想定どおりに動かない場合があります。

  • 拠点間VPN(接続元IPアドレスを固定して許可する構成)
  • 取引先やクラウドサービスのIPアドレス制限(許可リスト)
  • 外部からの遠隔アクセス(監視カメラ、遠隔保守)

この場合は、固定IPを利用できるメニューを選ぶという判断になります。たとえばtransixには、IPv4 over IPv6でグローバルIPv4アドレスを1回線あたり1個固定的に割り当てる「固定IP(IPIP)」というサービスがあり、公式ページではインターネットVPN・監視カメラ・IoT機器といった用途が挙げられています(出典:インターネットマルチフィード「IPv4 over IPv6接続『固定IP (IPIP)』」)。この場合も、IPIPトンネリングに対応したルーターの設置・設定が必要とされています。

固定IPが必要かどうかの棚卸し手順は、法人向け固定IPの解説記事を参照してください。

4. 外部公開・ポート変換の可否

社内サーバーの公開や、特定ポートでの受け口が必要な業務がある場合も注意が必要です。一般に、アドレスを共有する方式では、外部から特定ポートへ着信させる設定に制約が生じます。MAP-Eでは自社に割り当てられたポート範囲の中でルーター側の変換設定を行える場合がありますが、可否や設定方法は提供事業者・機器の仕様により異なります。「できるはず」と前提を置かず、契約前に事業者へ確認するのが安全です。

自社に合う方式を判断するチェックリスト

#確認項目Yesの場合の考え方
1拠点間VPNやIPアドレス制限のあるサービスを使っているか共有方式のままでは影響が出る場合あり。固定IPを利用できるメニューを検討
2外部からの遠隔アクセス(監視カメラ・遠隔保守)があるか同上。固定IP+対応ルーターの構成を前提に見積もる
3同時接続の多い拠点(端末数が多い/来客用Wi-Fiあり)かポート数の割り当て条件を事業者に確認。拡張オプションの有無も確認
4既存のルーター/UTMの対応方式を型番で確認したか未確認なら先に確認。方式が違うと機器の入れ替えが発生する
5社内システム・クラウドが接続元IPを見ているか許可リストの棚卸しを実施。移行時の登録変更もタスクに入れる
6切り替え作業の時間帯と切り戻し手順を決めたか決めてから実施。営業時間中の作業は避ける

方式名そのものを指名買いするより、「1〜5の要件を満たせる構成をどう組むか」で選ぶほうが、結果的に手戻りが少なくなります。

GIGANEXTという選択肢

当社(有限会社ゼスト)が提供する法人向けインターネットサービス「GIGANEXT」は、インターネットマルチフィード株式会社が提供するIPoE接続サービス「transix」を採用しています。現在は、グローバル固定IPアドレス1個を含む構成でご案内しています。transixでは、IPv4 over IPv6 の固定IP接続(IPIP方式)が提供されています(出典: インターネットマルチフィード「IPv4 over IPv6接続 固定IP (IPIP)」)。この記事の文脈でいえば、本記事で挙げた「固定IPアドレスが必要な業務があるか」という論点を、共有方式のまま回避する工夫で解く必要がなくなるという位置づけです(通信速度はベストエフォートであり、利用環境・時間帯により変動します)。

当社は福岡県を拠点に、集合住宅・ホテル・法人オフィス向けネットワークの設計・導入・保守を手がけています。方式の名前だけで決めるのではなく、「拠点間VPNはあるか」「接続元IP制限のあるクラウドを使っているか」「既存のルーター/UTMはどの方式に対応しているか」といった前提条件を一緒に洗い出したうえで、必要な構成をご提案します。既存機器を活かせるケースか、入れ替えが必要なケースかも含めてご説明します。

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まとめ

  • DS-Lite・MAP-Eは規格名、transix・v6プラスはサービス名。まずこの2階層を分けて考える
  • 最大の違いはアドレス変換を行う場所。DS-Liteは事業者側(AFTR)でステートフルに、MAP-Eは宅内側(CE)でステートレスに変換する
  • どちらもグローバルIPv4アドレスを共有する前提。同時に使えるポート数には上限がある
  • 法人が確認すべきは、対応ルーターの方式・ポート数の割り当て条件・固定IPの要否・外部公開の可否の4点
  • 通信速度はいずれの方式でもベストエフォート。方式の変更は「原因の切り分け」とセットで判断する

参考(出典)

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